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「ソン」以前のキューバ音楽
 

10: 「クアルキエール・フロール」シンド・ガライ&グアリオネス・ガライ

< 形式:トローバ >
K :“トローバ”というのはつまりトゥルバドール、吟遊詩人のことですよね?

T :そうです。キューバ革命後の 60 年代に、そのように命名されました。もともとは「自由人」のようなイメージで、地方で流しをしたり歌を指導したり、ギターの弾き語りなどをした人たちのスタイルです。このシンド・ガライはトローバ四天王の一人です。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのコンパイ・セグンドの師匠にあたる世代の人ですね。

K :かなり叙情的な唄い方ですね。そういえば以前高橋さんが編集された『キューバ歌謡創生期の歴史』(オーマガトキ)ってまだカタログにあるんですか?

T :まだありますよ。

K :キューバというとどうしてもリズムに注目が集まりがちですが、こういう歌謡系もいいですよね。

T :2つのメロディーを同時に違った歌詞で歌ったりするクラシックの要素がはいったスタイルなどもありますが、逆にカントリー・ブルースにも通じる気がします。僕が一番好きなジャンルかもしれません。

 

11: 「アイ・ママ・イネス」 R. ルイス、 P. ロドリーゲス、 M. ポンセ、 M. ロドリーゲス& P. ロメーロ

<形式:ソンの原型 or 変種?>
K :ここまで聞いてきた色々なスタイルが全部混ざった感じですね。

T :そうですね。歌い方はサルスエラだし、前半がゆっくりで後半になってリズムが早まるあたりはまるでソンの形式だし、そこにピアノなんかも入っていたりして……どこのジャンルに入れたらいいのか?

K :もしかしたらソンとは別のこんな風なスタイルに発展した可能性もある訳ですね。とても面白く深い音楽でした。

 

 

新世代・ミクスチャー音楽
 

K :後半は一気にごく最近の音楽を中心に聴いていきます。革命後にキューバで外国のレコードは聞けたんですか?

T : Egrem というレーベルなどはロック、ソウルをリリースしていたし、海外と取引のある人などがレコードを持ち帰って皆で聞いたりしていたようです。最近もリック・ウェイクマンやハービー・ハンコックが文化交流などの意味合いでキューバでコンサートを開いたりしていますし。

 

12: 「ジェゲ・ジェゲ」ロス・バン・バン

K :これはレア・グルーヴ好きの人なんかも納得しちゃいそうな音ですね。

T :ロス・バン・バンの初期はこんなふうでした。延々とリズムを刻んでいて、けっこう衝撃を受けたのを覚えています。リーダーのフアン・フォルメルはビートルズなどロックの影響下で活動をスタートして、そこにキューバ音楽を重ねていった人です。 60 〜 70 年代は世界的にロックの流れが主流でしたから、キューバ国内でもロックだったんでしょうね。これは改革後の流れのひとつの代表的作品です。

 

13: 「グアパチャ・エル・メホール」グアパチャ with チューチョ・バルデース

T :アルバムは1枚しかないグアパチャですが、スキャットで有名な人です。

K :イキなオヤジですよね。

T :活動したのは2〜3年だけですぐに亡くなってしまいました。彼の死はキューバでは大きな損失だと考えられています。バックはチューチョ・バルデースのバンドです。チューチョはキューバン・ジャズに道筋をつけた重要人物です。

K :巧みなバッキングですよね。

T : 64 年の録音ですが、チューチョがソロ活動をはじめてまもなくですね。

K :このCD、前にアオラさんから出てたんですが、今は廃盤になってるようです。ぜひ再発して下さい。(笑)

 

14: 「トゥ・ミ・デリリオ」ホセー・アントニオ・メンデス

T :ロック、ジャズの影響以外にボレロのモダン化という流れがありました。

K :このホセ・アントニオ・メンデスはとても変わった歌い方をしますよね。

T :キューバではボレロはこれぐらいやらないとダメなんだと思います。

K :結構えぐい感じです。暑さと対極にあるのが“フィーリン”だというイメージがあったんですけど。

T :フィーリンにはジャズの影響もかなりありますね。 40 年代から続くボレロのモダーン化ムーヴメントであるフィーリンはよくボサ・ノヴァの影響で始まったのではないか、と言われますが、明らかにボサ・ノヴァより前からありました。現代のキューバの若者もフィーリンが好きです。

K :先ほどから名前だけは話に出ているボラ・デ・ニエベの音楽性にもフィーリンがはいってますよね。

T :「うたもの」の系譜はずっと続いていて、革命後にはヌエバ・トローバという運動が起きました。前半でお聴きいただいたトローバを現代に甦らせ、自由な気風で弾き語りで表現する、というスタイルです。

さて、ここからはさらに新しい 2000 年あたりからの現在形の音楽です。

 

 


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