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  1: 「Carrick-A-Rede」キャシー・ライアン

鈴木(S):今日紹介するのはケルト音楽ではなく、基本的にイギリスの西に浮かぶアイルランド島の音楽です……と言いつつ、いきなりキャシー・ライアンはアメリカ人ですよね?

大島(O):アイリッシュ・ミュージックは決してアイルランドだけに限らない、ということなんです。キャシーはアメリカ人で人脈もかなり広いようです。簡単に演奏陣も紹介しましょう。ジョン・ドイル(g)はダブリン生まれでアメリカ在住。「ケルティック・クリスマス」などでの来日経験も豊富です。ジョン・マカスカー(fiddle)はスコットランドの腕利き、コーラスのカリン・ポルワートはスコットランド、レスター・シンプソンはイングランド人です。ジェームズ・マッキントッシュ(perc)はスコットランドでNo.1のパーカショニストですし、クリス・ドレヴァー(g)はイングランドで、フィル・カニンガム(acc)はスコットランドの最高のアコ奏者、といった具合。しかも録音はイングランドという不思議なレコードです。

茂木(M):アイルランドの音楽を最初に世界に発信したのは、イングランドではなくアメリカなんですよね。1920年代、アメリカの東海岸でポーランドやギリシャなどの大量のSP盤がリリースされた時に、はじめて本物のアイリッシュ・ミュージックも紹介されました。もともと、アイリッシュ・ミュージックは雑食性の高い状況の中で発信されたんです。それが今の荒川静香にまでつながっている、というわけで。

 

2: 「ジミー・マーフィ」フランク・ハート

M:フランク・ハートは生粋のアイリッシュ、それもダブリン生え抜きです。

S: これは英語の響きもかなり違いますね。どんなことを歌っているんですか?

M:先ほどのキャシー・ライアンの曲でも、ギリシャの弦楽器ブズーキは使われていましたけど、フランク・ハートはここでドーナル・ラニーのブズーキ1本だけをバックにして歌っています。こういう試みは、このアルバムが初めてだったはずです。歌のテンポの揺らぎに、ブズーキがついていく。ダブリンの路上で歌われ、笑いをとっていた歌なんですが、内容といえば、実は1798年のウルフトーンの反乱で捕らえれ処刑されたジミー・マーフィの最後の1日という……囃し言葉の具体的な意味はぜんぜん判らないんですが(笑)。

S:ドーナル・ラニーはブズーキをアイルランドに広めた張本人の1人といっていいですよね?

O:まさに張本人でしょう。とくに伴奏楽器としてのブズーキの演奏という点では第一人者です。ブズーキはもともとギリシャの楽器ですが、楽器だけでギリシャの音楽はまったく持ち込まなかった、というのが面白いです。

S:ご存じの方も多いと思いますが、ドーナルはU2、ヴァン・モリソン、エルヴィス・コステロなどのロックの大物とも共演してきたアイルランド有数のミュージシャンでもあり、ひじょうに優れたプロデューサーでもある人です。

O:フランク・ハートは最近惜しくも亡くなりましたが、彼はヴォーカリストとして素晴らしいだけでなく、2万3,000曲という膨大な音楽のアーカイブを作り上げ、現在は息子たちが管理しています。

 

3: 「ザ・ドーン/ミュージック・イン・ザ・グレン」レオ・ロウサム

S:この人はパイプの巨匠ですね。

M:アイルランドのバグパイプは、イーリアン・パイプス、イルン・パイプスなどと呼ばれてます。チャンター管(メロディ)、ドローン管(通奏低音)、レギュレーター(和音を鳴らすパイプの集合体)という三つのパーツからできていて、それらを同時に鳴らす厄介な楽器です。

S:47年の録音なのに素晴らしい音ですね。

M:イーリアン・パイプのソロ演奏としてはかなり早い時期の作品です。レオは祖父の代からイーリアン・パイプの制作、修理、演奏をしてきた「家元」のような人です。

 

4: 「ザ・フロギング・リール」ウイリー・クランシー

M:彼はクレア州西部のミルタウン・モルベイ(アイルランドの西端)で生まれたパイパーです。かなりの年齢になってからイーリアン・パイプを修得し、一気に巨匠になってしまいました。“ウイリー・クランシー・サマースクール”というフェスティバルが、今も生地で開催されています。

これは67年の録音ですが、先ほどのレオ・ロウサム(47年)から20年を経た時点でイーリアン・パイプの演奏がどれくらい変わったか、に注意して下さい。レギュレーターを使う量がすごく減っており、演奏速度を上げてメロディーの切れをよくし、アタックを強く効かせています。これはもう、単にダンスのための音楽ではなく、聞かせるための音楽になっているんです。

その聞かせる音楽が普通になっていき、70年代になってプランクシティ、デ・ダナンといったバンドが現れたわけです。ある意味、テンポと表現力においていかに派手に演奏できるか、競い合ったようなところがありましたね。また、パイプが演奏する装飾音は、昔からほかの伝統楽器にも取り入れられていました。


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