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  1: 「マンボ・エロール」 エロール・ガーナー

久保田麻琴(以下K):エロール・ガーナーはウエスト・コースト・ジャズのピアニスト。ジャズのスタンダード「ミスティ」の作曲者でもあります。ブギーやバレルハウス、ストライド奏法を基本にしているんですが、ラウンジ感覚が一杯のきらびやかでファンキーなスタイルです。楽しそうなマナーはジャズ・ピアニストの域を超えていますね。ご覧いただいているパフォーマンスは1964年に撮影されたもので、テレビ・スタジオの観客を前にしながらも、まるで南部のジュークジョイントで踊る客を前に演奏してるようなディープな格好良さです。

関口(以下S):LAのマリーナ・デル・レイにある有名ジャズ・クラブ“Concert by the sea”はエロール・ガーナーの有名曲に因んで付けられたんですよね。1970年頃に何度か行きましたよ。エロールは左利きでベース・ラインが強いのが特徴ですね。ジャズの主流からは傍流扱いされましたが。

K:その独特の感覚が好きでした。ぼくはいつも本流から微妙に外れながらも独自の感覚を持つ人に惹かれるんです。腕力もさることながら、左右の手の微妙なタイモングのずれから来る粘っこいリズム感も、グナワやサンバに通じます。心の底から身体が動きますね。これが本当のグルーヴというものです。

 

2: 「エイプリル・イン・パリ」 チャーリー・パーカー

K:ジャズ(ビ・バップ)を代表するサックス奏者。というかモダン・ジャズの確立者です。でも、このアルバムはラウンジ&ムード・ミュージックのサウンド。スタンダード・ナンバーを管弦楽が入ったイージー・リスニング風なスタイルで演奏しています。いかにも50年代風のクリーンで幸せな家庭で流れるようなサウンドに、エモーシションてんこもりなパーカーの天才的なプレーがのる。これまたジャズ・ファンには賛否両論でしょうが、私にとっては理想のサウンド。

S:パーカーは特に初期はこういう演奏を好んでやっていましたね。お仕事でもあったし。パーカーって本当はクラシックや現代音楽も好きだったそうだし。

K:『バード』っていう映画の中ではクレツマー・バンドでバイトしてましたね。オリジネーターはジャンルにとらわれずに生きるんです。まわりがビートルスやベンチャーズを聴いていた中学高校時代に、私はジャズを聴いてましたが、ジャズ全般幅広く聞きました。みんな好きだったな。キャノンボールやエリントン、ホレス・シルヴァーやリー・モーガンなどファンキー系も大好きだった。でも、特にマイルスが格好良くて、67年以前のものには大いにはまりました。カントリー音楽以上に私の音楽脳に絶大なる影響を与えています。

 

3: 「ガールズ・オブ・マイ・ドリームズ」 リン・ホープ

K:テナー・サックスのリン・ホープ、50年代後半の録音です。これはロンドンの中古盤屋で見つけました。妖しげなターバンを撒いたリンの顔のジャケ、しかもタイトルは“MOROCCO”。このエキゾティシズムというか、いかがわしさが堪らない!R&B直前のブラック・ミュージック。

S:彼はのちにムスリムとなってアブドラ・アフメドと名前を変えましたね。

K:コルトレーンなどと同じでやはりビッグ・バンドあがりの人のようですが、彼のスタイルがアール・ボスティックやサム・“ザ・マン”・テイラー、シル・オースティンにつながっていったのではないでしょうか。初期のR&B、そしてムード・テナーの創始者かも。この曲はミッキー・ロークやロバート・デ・ニーロも出たニューオーリンズとヴードゥーをテーマにしたセミ・ホラー映画『エンゼル・ハート』のテーマ曲として印象的に使用されていました。

 

4: 「グッド・ナイト・アイリーン」 ジェイムズ・ブッカー

K:ニューオリンズの伝説のシンガー&ピアニスト、ジェイムズ・ブッカー。最も好きな5人に入る、いやもしかすると1番かも。ワン&オンリーとはこの人のことで、本当のミュージシャンとはこの人のことをいう。ピアノは人間離れしてるし、唄もかっこ良い。アラン・トゥーサンをはじめ、ニューオーリンズの全ての音楽家たちが一目置いてます。ドラッグをやっていたので仕事場でもめごとを起こすことが多く、晩年はフレンチ・クオーターの映画館の幕間で演奏したりしました。こんなにすごい演奏が看板無しでただで拝めた時代もあったんです。ブルースやジャズのみならず、スタンダードやポップスやフォークまでを100%自分のスタイルで唄い、演奏しました。死んでから音源がいっぱい発表されましたね。

S:彼の初期、ピーコック時代のオルガン・プレイが大好きなんですよ。 

K:ハモンド・オルガンの録音セッションも多いですね。

 

5: 「ヒューイ・スミス・メドレー」 ドクター・ジョン

K:最初にニューオーリンズを意識させてくれたアルバム、『ガンボ』。最高の選曲と素晴らしい演奏で埋め尽くされた作品です。リズム感や音の重ね方でそうとう影響されました。我々、日本の70年代ロックに一つのドアを与えたのがこのアルバムです。そのドアを開けて、南部やカリブ、そしてその先のラテンや中東やインドに向かうことになったのだと思います。ファンキーさと素朴なフォークロア性、そしてカジュアルな魔術性がたまらない。ブードゥーからカンドンブレでブラジルやアフリカにも繋がっている。図太いルーツが歓楽街のきらびやかさの中にいきいきと蠢いているような怪物音楽。


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