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  18: 「砂漠のトラヴェラー」ティナリウエン

K:さて、アトランティック=大西洋を越えた向こう側では、“砂漠のブルース”というジャンルが最近できつつあるんですが、アフリカだから黒人とは一概に言い切れない。たとえば北アフリカにはベルベルという先住民族がたくさん住んでますが、このティナリウエンは、そのベルベル系のような遊牧民、トゥアレグ人のグループです。サハラ砂漠を国境とは関係なく旅しながら、暮らしてきた民族ですね。

近年聴いたなかでもっともロックを感じました。あえてロックと言いますけども、2005年に日本にも来てます。これは2枚目のアルバムです。国籍としてはマリらしいんですけど、普通のマリ人とは見た目もぜんぜん違って、どこかサンタナのメンバーみたいな。

つい最近、彼らの故郷の街で暴動があって、本人達はヨーロッパツアー中なんですけど、街がかなりメチャクチャになったらしいんです。気の毒な話ですけど。現代のディアスポラですね。

S:ヨーロッパではすでにかなり注目されてますよね。確かにロックを感じる部分があります。

K:そうですね。ザ・バンドを聴いて感じたかび臭さのような不思議な感触があります。脊髄をグッとつかまれるようなリズムの揺れですかね。こういうのが一番身体が動きますね。

 

19: 「O Ponos Tu Prezakia」アネスティス・デリアス

K:レンベティカっていうギリシャの古いポピュラー音楽で、これはもともとSP音源でしょうね。トルコを追い出されたギリシャ人がトルコの音楽と楽器を持ち帰ってできあがったそうです。人種はかなりミックスらしいです。

S:はぐれ者というか、やくざ者の音楽ですよね。

K:アテネのね。メロディーだけ聴いてると、ちょっと下町っぽい粋で軽やか音楽に聞こえるんですけども、歌詞を見るとビックリ。「今日はハシシだった。明日はヘロインだ。こんなことしてたら俺はすぐにのたれ死ぬだろう」とか、そんな調子で、ドラッグの歌ばかりなんです。音楽は全部春の野原のようにのどかでかわいらしいのに、歌詞がやけくそなんです。この落差が非常に信用に値するといいますか。すばらしい。この頃のアテネっていったいどういう街だったのかな?って思いますよね。

S:このアルバムに入ってる歌は、こういうふうに声をつぶして歌う歌手がすごく多いですよね。この手の発声スタイルっていうのは、すごく一般的だったんじゃないですかね? 30〜40年代のギリシャでは。

K:マイクロフォンがあまり良くなかったせいもあるんじゃないかな。ギリシャは未体験の国で、いつかゆっくり訪ねてみたいと思ってます。

 

20: 「Stoma Kai Fili」エレーニ・ツァリゴプール

S:この人はまったく知りませんでした。なんて読むんですか? エレーニ・サリゴプールー……?

K:ツァリゴプールって読むみたいです。日本では専門ショップじゃないと手に入らないかな。これはジャケ買いなんです。検索かけると3、4枚アルバムは出てきますけどね。曲を書いた人はコスタス・カルダースっていう有名なレンベティカの作曲家の息子さんらしいです。いいですよね〜。

どういうわけか最近のは普通のアイドル歌謡歌手みたいなっちゃったようで。でもこのデヴューはすごくいい。歌のうまい人がたくさんいますよね、ギリシャには。ハリス・アレクシーウとかヨルゴス・ダラーラスとか。若い頃の歌謡時代のヨルゴスの歌のうまさといったら! ギリシャはヨーロッパというよりはバルカンですよね。それなのにEUに加盟してしまって、不思議な国です。

 

21: 「ウェディング」ゴラン・ブレゴヴィッチ

K:これはゴラン・ブレゴヴィッチという人の音楽ですけど。これはギリシャでのコンサートのライヴ録音なんですよ。テッサロニキがどうのこうのと言ってますよね。で、「センター・オブ・ヨーロッパ」とも言ってて、そういう意識があるんですかね? ここが本当のヨーロッパだっていう。

S:まあゴラン・ブレゴヴィッチというのは、バルカン全体を代表する音楽家で、彼の活動は各国政府も協力する。ギリシャも、たまにはトルコも協力するような大音楽家・大作曲家ですから。

K:もともとロッカーですよね。

S:ロックですね。サラエヴォ出身で「白いボタン」っていう意味のビエロ・ドゥ
グメっていうオリジナル・バンドのメンバーで、日本にいるあの、ヤドランカさんと……

K:一緒にバンドやってたんだ、そうだ!

S:彼女が10代でアイドルだった頃に、ゴランと一緒にバンドやってたことがあるんです。その彼がエミール・クストリッツァ監督の『アンダーグラウンド』とか『ジプシーの時』といった映画のサントラを手がけた。

K:そう、私もやっぱり最初は映画ですね。サントラがすばらしいですよね。クストリッツァも自分でロック・バンドやってたりしますけれども。

S:クストリッツァもブレゴヴィッチもサラエヴォの出身なんですよ。サラエヴォでは内紛もすごく起きたんですけど、文化がクロスして新しいものが生まれる地域でもあって、新しいバルカンの文化、ユーゴの文化はほとんどサラエヴォから発信されています。サラエヴォはもっともっと注目されるべきじゃないかなと思います。

K:ここも旅行リストに加えます。

 

22: 「エデルレズィ」ゴラン・ブレゴヴィッチ

K:これは『ジプシーの時』の主題歌ですね。私はあれを観て日活映画を思い出しましたけども。まだ戦争前で社会が安定していたせいか、絵もきれいでした。これもブレゴヴィッチの作曲のはずで大好きなメロディーなんだけど、実はトルコにまったく同じメロディーがあったりするんで、実は東ヨーロッパ全体に広がる民謡のようなものなんでしょうね。でもやっぱり、あまりにもメロディーがいいので、聴いてもらいました。声はちょっとインドが入ってますよね。今ちょうどインドのアルバム作ってるんですけど。

S:あとブルガリアン・ヴォイスもすこし。低音パートの発声も似たところがあるんですよ。

K:ブレゴヴィッチのコンサートは観てみたいな。

S:ゴランは今、大オーケストラを率いて国家的なプロジェクトを進めていて、ヨーロッパには時々行くんですけども、アジアにはほとんど来たことがない。

K:しかも、地中海の屋内音楽場みたいなところが会場で、チケットがすごく高いから、敷居高いですけどね。なにはともあれ才人ではあります。

 

23: 「レッツ・ゴー・アウト・トゥナイト」
    クレイグ・アームストロング・フィーチャリング・ポール・ブキャナン

K:ロックをあまりかけてないので1曲。イギリスにブルーナイルっていうバンドがいて、10年に1枚くらいしかアルバムをつくらんないんですけど、これは彼らの名曲のカヴァー・ヴァージョンです。クレイグ・アームストロングっていう人のアルバムなんですけども、歌っているのはブルーナイのポール・ブキャナン。さっきのゴランもそうですが、この辺の曲は私の精神安定剤なんです。すばらしい声ですね。

S:このアルバムは初めてちゃんと聴きましたけども、ヴォーカル・チューンはこの曲だけなんですよね。

K:ええ。サントラをたくさん手がけてて、ビョークやマッシヴ・アタックの弦のアレンジャーもやってますね。ブルー・ナイルの音楽って、なんていうかな、絶望の手前、まだクールに見える余裕を残しているイギリスというか、そんな感じがするんですよ。

それをちゃんとこういう芸能フォームで表現してうまくいった例ですね。歌は、とりあえず家から街へ出て気分転換をしようってことでしょうか。ここでないどこかに行けることはいいことですね、すごく。私も関口さんも世界のいろんなところに出かけてる。

S:あっちこっち行っているのに、久保田さんとは歩いてるコースが基本的に全然違う(会場・笑)。モロッコには僕も行ってますけども、あとはぜんぜん重なってないのが面白いですね。

 

24: 「恋のフーガ」エルフィ・スカエシ

S:最後はインドネシアのエルフィ・スカエシですが、実は僕はこれで久保田さんのことを最初に知ったんですけど、これはすごく好きな音楽です。歌謡が好きですから。

K:これ、オリジナルはザ・ピーナッツですよね。リアルタイムではぜんぜん好きじゃなかったんですけど。

S:僕はリアルタイムでかなり好きでしたよ。

K:あ、そうですか。エルフィはインドネシアの美空ひばりのような方ですよね。

S:久保田さんが無理矢理引っ張り出して作った、『ディーヴァ復活』というアルバムに入ってる曲ですね。

K:彼女の家に行くと3時間くらい待たされるの。ず〜〜っと待ってるとまるでインド映画みたいに螺旋階段を降りてらっしゃるんですね。さすがに歌いながらじゃありませんが。

S:この頃、デティ・クルニアとかエリー・カシムとか、インドネシアの歌い手が次から次へと日本にも来ましたよね……とこの辺で予定時間をだいぶ過ぎましたので終わりにします。楽しいお話をありがとうございました。

K:ありがとうございました。岩波新書で出た僕の本『世界の音を訪ねる』もよろしくおねがいします。

 

25: 「Addeysh Kan Fi Nass」ファイルーズ

K:それでは、レバノンに早く平和が来ることを願って、ファイルーズの素晴らしい声を聞きながらのお別れです。

S:1日も早く停戦になることを祈ります。どうもありがとうございました。



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