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第1部
メキシコ音楽・百花繚乱
6: 「クンビア・ソブレ・エル・リオ」セルソ・ピナ

U:次はクンビアです。クンビアっていうのは南米のコロンビア生まれのリズムで、たぶんラテン・アメリカで一番定着しているリズム、使い勝手の良いリズムだろうと思います。アメリカのヒスパニックの人たちにも、クンビアはだいぶ入り込んでいるし、メキシコ音楽の重要な要素でもあるわけですね。今聴いていただいたのは、メキシコのクンビアの中ではちょっと都会派で、バジェナートっていうコロンビア発祥の音楽に近いんですけども、若い人がよく聞いているタイプのものです。それとは別に、メキシコ・シティあたりでタクシーやバスに乗ると運転手などがよくかけている、もう少し古いタイプの先住民の楽器だけを使ったクンビアもありますが、今はこういうクンビアが、ラテン・アメリカでは盛んに演奏され聞かれています。大衆音楽の典型みたいな音楽ですね。

 

7: 「南のメドレー」 マリンバ・ナンダヤパ

U:メキシコのマリンバ音楽を聞いていただきました。マリンバ音楽はメキシコの重要な音楽様式のひとつで、南部のチアパスから中米のグァテマラにかけて定着しています。西欧のマリンバは共鳴体には金属の丸い筒を使いますが、メキシコのマリンバは木の筒を組み合わせて作り、その中に豚の皮を入れて、微妙な音を出します。もともとはアフリカの西岸で演奏されているバラフォンという木琴が伝わったものですね。

アフリカのマリンバは共鳴体に瓢箪なんかを使うんですけども、その形式はグァテマラのマヤ系先住民の共同体に今でも残っていて演奏されています。それを大きく発展させて、ひとつの形に整えたのがメキシコのチアバスあたりにあるわけです。メキシコや中米ではマリンバはとてもよく聴くことのできる楽器で、例えば小さな商店のオープンのときに店の前でマリンバを叩いて客を引くといったことが今でも日常的に行なわれています。

 

8: 「ラ・ジョローナ」(ランチェーラ版) リラ・ドウス

U:前のマリンバの2曲目に「ラ・ジョローナ」というオアハカ地方の民謡が演奏されたんですけども、それをランチェーラ、マリアッチ形式で歌うとこういうふうになるという例として、同じ「ラ・ジョローナ」を聴いていただきました。

歌っているのはリラ・ドウスというかなり社会派の歌手で、国籍はアメリカなんですけども、もともとはオアハカの小さな先住民の村の生まれです。母親はサポテカ・インディアン、半分はアメリカ人なんですね。この歌はちなみに日本でも公開されたフリーダ・カーロの伝記映画『フリーダ』の中で歌われた曲のサントラ盤からのものです。彼女のようにメキシコで生まれて、いったんアメリカに移ってそこで音楽の勉強して音楽活動を始めて、またメキシコに戻ってくるっていう、そういうメキシコ人も沢山いるわけです。

映画の『フリーダ』は世界的にヒットしたわけですが、それ以前前に僕も何回か彼女の歌を聞きに行ったことがあって、ほんとに小さな広場でね歌うような歌手だったんですけども、映画に出たことによって大スターになってしましました。

 

9: 「バホ・ミル・ジャべス」バンダ・マゲイ

U:クンビアやノルテーニョと同じような大衆音楽のジャンルのひとつにバンダというのがあるんですが、そのバンダの代表的な若手グループのバンダ・マゲイを聴いていただきました。「マゲイ」というのは竜舌蘭、テキーラの原料になる竜舌蘭のことです。気がついた方もいらっしゃるかと思うんですけども、低音部を担当しているのは、日本のブラス・バンドでお馴染みのスーザフォンです。

このバンダっていうのは基本的にベースを使わないんですね。その代わりにスーザフォンを使うわけですが、こういうふうにスーザフォンがメインになっている形式の音楽は、太平洋沿岸のマサトランという街あたりが発祥になっていて、最初はフェスタやダンスフロアで演奏されていました。そのうちに若い才能がたくさん出てきて、今では先ほどご紹介したノルテ‐ニョに負けないくらいの数のグループがいて、メキシコの大衆音楽の定番になってます。

メキシコの大衆音楽には、僕に言わせていただくと、楽器への妙な偏愛があるんですよね。だからこのバンダ音楽も、ベースをスーザフォンに担当させたり、チューバ〜スーザフォンより小ぶりの低音楽器ですけども〜に担当させたりしているわけです。ランチェーラ、マリアッチもベースは使ってなくて、大きなギターのお化けのようなギタロンという楽器に低音も担当させてますね。

もう一つメキシコ大衆音楽の大きな特徴として、アコーディオンをものすごくよく使うんですね。たとえばノルテーニョではほぼ100%アコーディオンを使います。そのアコーディオンも鍵盤式じゃなくてボタン式で、そのほうがスピード感が出るわけですね。蛇腹楽器としてのアコーディオンを最も大衆音楽で使っているのはたぶんメキシコだろうし、スーザフォンっていうブラスバンド楽器を大衆音楽の中で取り入れてるのもメキシコだけじゃないかというふうに思います。メキシコの演奏家、音楽は、そういう楽器へのこだわりがすごく強いのが特徴だと思います。

 

10: 「アメリカ・アメリカ」 ルイス・ミゲル

U:このルイス・ミゲルは、ラテンアメリカ全体で現在もっとも有名な歌手ということになると思います。この「アメリカ・アメリカ」は彼の代表曲で、1991年に発表されて、メキシコに限らずラテン圏で大ヒットしたんですね。

'91年になぜ「アメリカ・アメリカ」という曲が出てきたかと言いますと、翌年の92年がコロンブスのいわゆるアメリカ到達500周年だったわけです。コロンブスを送り出した側のスペインでは、バルセロナ・オリンピックとセビージャの万博も開かれて、祝賀ムードに包まれていたんですよね。それに対するアメリカ大陸側の応答として、いろんな運動や先住民の運動があったり、大衆音楽もたくさん作られたんですけども、このルイス・ミゲルの「アメリカ・アメリカ」は、その当時アメリカで広く聞かれました。

詩の内容が、「本当の神に与えられた土地なんだけど、まだ平安が訪れていない」という、要するにスペイン人の記念行事に対する控えめな抵抗なんですが、それがすごく流行ったわけです。ここでいう「アメリカ」というのは、USAのことではなくて、南北の両アメリカ大陸を含んだ大きなアメリカのことですよね。彼らの言い方では「エスタドスウニデンセ」というのが我々の言うアメリカ人のことで、せいぜい「ノルテ・アメリカーニョ」という言い方しかしません。ですから、この「アメリカ・アメリカ」は、ラテン人のアメリカに対する抵抗になっているわけです。

 

11: 「ビルヘン・モレーナ」 エル・トリ

U:ご存知のように例えばメキシコにはロック・グループもいて、日本でもカフェ・タクーバですとかマナといったバンドは聴かれています。メキシコのロックのことを例えばロック・アステカなどと呼んだりもしますが、ジャンルも多様にあります。最後にそのロックの一例として、エル・トリを聴いていただいて前半を終わりにしたいと思います。

ほかにもメキシコには1,000万人以上もいる先住民たちの独自の音楽もたくさんあって、その辺はご紹介できませんでした。ですから、今日聴いていただいたメキシコ音楽というのは、あくまでもポピュラー音楽として大きな市場を持っているものの、その一端なんだ、ということです。

 


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