桜丘町音樂夜噺 > 第九夜 > お噺:1 / 2 / 3 / 4

今年のコンダ・ロータ出演アーティストから
 

06: 「イントロダクション」カイハン・カルホール

S:いよいよ9月末から5年ぶりのフェスティバル・コンダ・ロータが始まります。今年はイスラム圏から5組のアーティストが出演するということで、これは非常に画期的なことだと思うんですが、こういう企画に決まったいきさつからお聞かせいただけますか?

N:いま、「中東」「イスラム」という言葉は一日に何度もテレビや新聞で見たり聞いたりしますけども、実際には非常に画一的なイメージで語られていますよね。この地域の人たちがどういう文化を持っていて、どんなことを考え、なにを感じているのか、ということはなかなか日本には伝わってきません。そこで、イスラム圏の素晴らしいアーティストたちの生の声をぜひ聞いてもらいたいと考えて企画をしました。

S:まず最初のカイハン・カルホールという人はイランのアーティストですね。現在はアメリカ在住なんでしょうか?

N:いえ、今はイランの首都テヘランに住んでいます。彼が弾くのはカマンチェといって、4弦の楽器なんですけども、ヴァイオリンの原型になったと言われています。また、シルクロードを伝わって胡弓などの原型にもなっているようです。

S:今回カイハン・カルホールはどういう編成で来るんでしょうか。

N:サントゥールという楽器奏者と二人で来ます。サントゥールは揚琴とかツィンバロムといった名前でも知られている楽器ですね。

S:弦を叩く、打鍵盤楽器ですね。なるほど。先日彼のビデオを見せていただく機会があったんですが、ヨー・ヨー・マとかクロノス・カルテットとも共演しているんですね。この人はイランでは国賓級、国宝級の偉大なミュージシャンなんですよね。

N:そうですね。イランとアメリカを行き来できるというのはそれだけで特別な扱いだと思います。フェスティバル・コンダ・ロータを広めたくて時々街角のドネル・ショップにもプロモーションに行くんですけども、イランの人はみんな「えっ、この人が来るんですか!」とすごい反応でした。国民的な有名人なんです。

S:ただ、この人は意外に音源があまりないんですよね。

N:『マスター・オブ・ペルシアン・ミュージック』というアルバムや、ガザルというトリオでやっている別のプロジェクトで2枚出てはいますが、本人名義のCDは少ないですね。今お聴かせしたアルバムは日本盤で、オフィス・サンビーニャさんから出ています。

 

07: 「ヤ・ジャニート」デュオウード & アブドゥラティフ・ヤグブ

S: ウード2本のデュオウードというこのグループは、昨年も来日したんですね。僕はあとで知って非常に残念でした。彼らはトラディショナルな音楽に現代的なエレクトロニクスの味付けや風味を加えて、しかも本来の音楽や楽器の良さを失わないといった試みをしているデュオですね。このデュオウードは去年も日本に来てるんですね。

N:はい。去年はダンヒルという紳士用品のブランドパーティーのために招きました。デュオウードはジャン=ピエール・スマッジと、メーディ・ハダブという2人のグループです。スマッジはウードとコンピューター、サンプリングを担当して、メーディの方はもともとはギター小僧なんですけれども、ひたすらウードを弾きます。

S:あとで知ったんですけど、僕、じつは 94 年にスマッジとスロベニアという国で一度会っていました。当時はエレクトロニックなアーティストという印象でした。たぶんスマッジはこのパートナーのメーディの影響でウードを始めたんですよね。

N:はい。

S:もともとはエレクトロニクスの宅録小僧みたいな男で、たしかチュニジア生まれでパリ育ち。 10 年以上前からかなり活躍してますね。たとえばトルコのブルハン・オチャルというダルブッカ奏者の最近の作品は全部スマッジのプロデュースですし、それ以外にもおびただしいプロデュース作品を残しています。そのいずれもがきわめてハイテクニカルなエレクトロニクス・サウンドを中心にしていて、そこに民族音楽的な風合いを取り込んでいる。大変な才人で、どの作品もなかなか素晴らしい。外れがありません。そんな彼がメインでやっているのがこのデュオウードなんだと思います。この曲でヴォーカルをとっている人は誰ですか?

N:アブドゥラティフ・ヤグブという、イエメンのウード奏者でヴォーカリストです。先日パリのライブハウスでちょうどこの3人の演奏を見てきたんですけども。イエメンは他のアラブ諸国の人に言わせると、非常に田舎扱いされるんですね。その分、あまり荒らされてない、すごくピュアなアラブ色が残っている所だというふうに聞いています。

S:イエメンは、アラビア半島の一番南に貼りついている国ですね。僕が今、最も行ってみたい国の一つです。そこから来ているミュージシャンが参加しているわけです。

 

08: 「チェイス」デュオウード

S: もう1曲、デュオウードから紹介します。この曲のバックグラウンドをちょっと紹介してください。

N:これはデュオウードという名前で出した1枚目の CD に入っているんですけれども、アラン・パーカー監督の映画『ミッドナイト・エクスプレス』のテーマ・ソングです。

S:どんな映画でしたっけ?

N:アメリカの青年が、麻薬をトルコから密輸しようとして空港で捕まって、終身刑を言い渡されるんですけども、5年後にようやく脱獄をするという、かなりシリアスな物語です。

S:メーディ・ハダブの方はヘビメタが好きだったんですよね。一方のスマッジはジャズから入ってきている、と。その二人が一緒になったんだけれど、メーディ・はヘビメタが好きな一方で 16 歳からイラン人のウード奏者ムニール・バシールという巨匠に大変感動を受けている。ヘビメタとウードの両方を自分の中で違和感なく同居させて吸収しているんですね。たぶんこれからのアラブのアーティストたちはどんどん新しいモードの音楽を創り出してくれるんじゃないかと非常に期待が募ります。

N:デュオウードの音は、打ち込みの音じゃなくて、まず最初にアコースティックのウードで作曲をして、そのあとから電子的な音を入れていくという作り方をしています。

S:今の時代にクラブ・ミュージックを経由しないでワールド・ミュージックを語ることはなかなか難しくなってきていると思うんですよね。現代の世界の音楽はこういったところに息づいているのかなという感じもします。

 

09: 「 Aj Rang Hai 」ファイズ・アリー・ファイズ

S:この曲はちょっと長めに聞いていただきました。

N:この人は、今は亡きヌスラット・ファテ・アリ・ハーンで知られる宗教音楽「カッワーリー」のアーティストなんですけれども、ヌスラットのスタイルをもっとも正統的に継いで、最高の形で表現をしていると言われるアーティストです。カッワーリーというのは、スーフィーというイスラム神秘主義の音楽ですね。

S:ヌスラットは日本にも何度も来てますが、手を広げて輪唱しながら周りのアンサンブルがついていくというヌスラットのスタイルと、ファイズ・アリー・ファイズはまったく同じですね。だからまさにファイズはヌスラットの再来かと言われているそうです。今回は何人で来るんですか?

N: 10 人です。

S:そのうち楽器演奏者は何人ですか?

N:楽器演奏者は9人です。

S:今聞いているアルバムは輸入盤のようですが、日本ではアルバムは出てるんでしょうか? 

N:今お聞きいただいているアルバムの次が『ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンに捧ぐ』というアルバムで、それはオフィス・サンビーニャさんから来日記念盤として出ます。

S:このアルバムは、1曲の長さが 11 分、 15 分、 19 分、 19 分ということで、コンサートも1曲がそのくらいの長さになるんでしょうね。じっくり付き合って聞いていくと、速度が微妙に変化をしていく感じとか、声の感じもどんどんどんどんグルーブしていくようで、その辺が聞きどころなんでしょうね。歌詞の意味はわかるんでしょうか?

N:おそらく神を崇めている歌ではないかな、と思います。コーランを歌っているわけではないそうです。もともと神のお告げが聞きやすくするため、神秘主義の修行僧をトランス状態に導く歌ですから。

 

 


桜丘町音樂夜噺 > 第九夜 > お噺:1 / 2 / 3 / 4
ページトップ
Copyright 2006 Ongakuyobanashi