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06:「 ヴァナージャークシ 」T.M.クリシュナ

S:スッブラクシュミのあとだと、T.M.クリシュナの立場がなくなっちゃいますが(会場笑)。

I: T.M.クリシュナはいいですよ!

S:彼も南インドですが、南と北の違いは、ラーガで分かって頂けたかなあ? はじめはちょっと分かりにくいかもしれないですね。南インドは歌がしっかりあるのが多い。

I:作曲家の作品をその通りに演奏する、というのが基本で、プラスαとして即興演奏を付けてもいいし付けなくてもいい。

S:だから1曲が3分だったり1時間になったりする。その差は何?と思うんですけど(笑)。

I:この曲も6〜7分ですね、全部聴いても。

S:1時間になることがあるのはどうしてなんですか? 曲によって決まってたりするんですか?

I:即興演奏を付けるのに、ふさわしい曲とふさわしくない曲があるんですよ。それはラーガや歌詞の内容によって決まってきます。美しい内容なら同じ歌詞を繰り返して歌うことができるし、ラーガの中にも即興演奏をしやすい、即興演奏に向いているラーガとそうじゃないラーガとがあるんですよ。

S:なるほど〜。このT.M.クリシュナって人は、今一番売れっ子の若手で、僕の本でも取り上げてるんですけど、まだ30代ですね。

I:出逢いは…?

S:道端で見つけて、「お、いた!」って(笑)。いや、最初は有名なT.N.クリシュナンと間違えたかなんかして、偶然に観たんですよ。

I:T.N.クリシュナンはもう70を過ぎてる大家のおじいさん。

S:フェスティヴァルに行くと、似たような名前の人がいっぱい出てるので。でもT.M.クリシュナが一番ワイルドでかっこよかったから、次の年も観て、今年(2006年)も観てきました。

I:南インドからは若手がすごくたくさん出てきてますね。古典音楽の世界でこれだけ若い人を育てられるっていうのが、すごいと思うんですよね。

S:人口10億ですから(笑)。

 

07: 「 シティ・ライフ 」ルイス・バンクス・サンガム

S:古典だけじゃなくて、インドにもいろいろあるんだよっていうことで、これは古典を基本としたフュージョン音楽です。と言っても、ジャズの‘フュージョン’とは違います。

I:インドではなんでもかんでも‘フュージョン’って言いますからね。でも、これはジャズとのフュージョンで、ルイス・バンクスはインドのジャズのゴッド・ファーザーと呼ばれている人です。この当時からずっと30年以上に渡って幅広い活動を続けてます。私はもともとフュージョン音楽って嫌いだったんです。ジョン・マクラフリンがL.シャンカルやザーキル・フセインと組んだシャクティは、古典の人たちがバトルをやってるんだからフュージョンじゃないと思ってたわけですよ。でもこれを聴いて見直したんですね。南インドの音楽を、しかもヴォーカルを使ってて、全員インド人でやってることに、すごい衝撃を受けたので、今日はみなさんにぜひ聴いてもらいたかったんですよ。サラームさん、どうですか?

S:81年でこれって、かなり新しかったんじゃないですか? あ、コブコブコブコブって口琴が入ってる。インド人は本当にテクニカルな音楽と相性がいいですよね。

I:そうですよね。すごいテクニックだと思いました。

S:僕もテクノ世代なもので、フュージョンもジャズも苦手だったんですよ。ビコビコいってない音楽はダメだったんです(会場笑)。

I:それも極端な話で(笑)。

 

08:「 5イン・ザ・モーニング、6イン・ジ・アフタヌーン 」リメンバー・シャクティ

I:そのシャクティですけど、これは再結成したときのほうです。

S:僕の場合はインド音楽がジャズの入り口になったぐらいに、ジャズやフュージョンは聴いてなかったんですよ。でもリメンバー・シャクティは、どうせフュージョンだろ? と思って観にいったら、演奏が凄すぎたっていう。

I:そう、シャクティはほんと個人の力量がものすごい。それを生かしたっていう意味では、混ぜてチャンプルーして新しいものを作るよりも、例えばうどんとカレーがバトルしてるような、そんなイメージが私は強いんです。この辺なんかは、古典やってるだけですもん、たんに。

S:ほんと、ふつうに古典ですね。

I:ただ、ジョン・マクラフリンが古典っぽくない演奏をしているだけですよ。

S:コード楽器のギターでね。でも生で観たら、これを聴かずにいるのはもったいないと思いますよ。こういうのが入り口になりました、僕は。

I:それはほんとうに良い出会いでしたね。最近の若い20代ぐらいには、リメンバー・シャクティからインド音楽に入ってきた人って多いですよね。

S:僕もこれが出発点になって一冊の本を書いちゃったくらいですから。

I:なんと言ったってザーキルですから。

S:よくわかんないですけど、縁があるわけですよね。

 

09:「 チュプケー・チュプケー・ラート・ディン・アンスー・バハーナー・ヤード・ヘイ 」グラーム・アリー

S:後半は古典以外から紹介していこうと思います。

I:まずグラーム・アリーによるガザルを聴いてもらいました。ガザルというのは、ペルシャ起源のウルドゥー語の恋愛抒情詩のことです。私は南インドが専門ですが、北の声楽も軽いものをやりたいと思って、ガザルとかバジャンを習ってたんですね。それでガザルの魅力にはまったんです。そのとき習ってた相手が実はサプナー・アワスティーという、今は映画音楽の有名な歌手なんですが……

S:あの♪チャイヤ・チャイヤ♪を歌ってた!

I:そう! その彼女がグラーム・アリーの大ファンで、こういう音楽をたくさん教えてくれたんです。これはその中でも私が一番好きな曲で、1970年代の映画の中に入ってました。ガザルは、詩を楽しまなきゃいけないって言われていて、メロディーはこのとおり、フニャフニャフニャっと流れちゃいますけど、男性が女性に対して叶わぬ想いを語って涙をするという内容で、詩の合間にちょこちょことおもしろいことを言ったりするのが、通の間ですごくウケるものなんです。

S:ボリウッドというか、ヒンディー語映画のために作られた曲なんですね。

I:有名な詩人が書いた詞に、彼がメロディーを付けて、それをボリウッド映画の中でも使ってるんですけど、これは映画風にアレンジされたものじゃなくて、ライブで手こぎオルガンを弾きながら歌ってるものです。

S:なるほど。これはわりと渋いんですけど、ガザルは“軽古典”っていうジャンルになるんですよね。

I:ライト・クラシカルですね。

S:前半に聴いていただいたのは純然たる古典で、どこが違うかというと……

I:軽古典のほうはメロディーが聞きやすくて、古典のラーガのルールにあまりこだわらない。ターラも違ってて、7とか8が多くて−−これは7です−−ティーンタールみたいに重厚なターラは使わない。気軽に聴けるんだけど、完全にポップではない、という中間ですよね。

S:たしかに、タブラとハルモニウムの器楽演奏で、古典をベースとしているけれど、即興性が高くなくて、ちゃんとメロディーが覚えられますもんね。

I:古典は通好みだけど、こういうものだったら一般の人たちにもアピールしますよね。

S:80年代のワールド・ミュージック・ブームの時に出てきた、パンカジ・ウダースとかジャグジート・シンとかがポップなガザルの人ですね。

I:ガザルをさらに聴きやすくアレンジした形で売り出されたものが、一時期ちょっと興味を集めたんだと思いますが、グラーム・アリーは彼らよりもひとつ前の世代です。

S:ガザルはムスリムだけではなくて、ヒンドゥーの人も歌うんですか?

I:グラーム・アリーはパキスタンの歌手ですけど、インドでものすごい人気があって、当然彼はムスリムですけど、ムスリム以外の人たちもみんなやります。印パ対立が政治的に激しいから、ムスリムとヒンドゥーは仲が悪いっていう印象を、我々は持ちすぎているんじゃないかと思います。例えば、タージ・マハルのような文化は、もともとヒンドゥーとイスラームが融合してできた文化で、その延長線上にこういう音楽もあるっていうふうに考えれば、すんなり理解できるような気がするんですけどね。

 


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