桜丘町音樂夜噺 > 第12夜 > お噺:1 / 2 / 3 / 4

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10: 「 ガネーシャ・チャラナム 」バーラージー・ナラシマン

S:バジャンという、ヒンドゥーの宗教音楽、宗教歌をお聴かせしました。これはサティヤ・サイババっていう90年代にちょっとブームになった人の歌です。10年前にこういうのを聴いてたら、間違いなく警察に通報されたでしょうね、オウムだ、って(会場笑)。今はヨガ・ブームのお陰で、ぜんぜん平気になりました。

I:それより急に演奏が素朴になっちゃったんで、みなさんショック受けてるんではないかと心配してるんですけど、古典の歌手が歌ってるバジャンもあるんですけど、今日はあえてサイババの信者の人たちが歌ってるものを持ってきました。

S:インドのテレビには、こういうことだけを一日中やってる宗教チャンネルがありますよね。

I:あります、あります。

S:親父が出て歌ってるだけみたいなね。1時間経つと違うやつが同じように歌ってる。カメラが引くと1万人くらいの客がいて、やべ〜と思うんですけどね。

I:私、じつはどんなもんかと思って、集会に行ったことがあるんです。

S:あ、僕もありますよ。

I:あります? やっぱり。みんな行ってるんだ(会場笑)。

S:チェンナイの音楽祭に、朝の9時に行ってみたら、上半身裸の“ガイ”たちが何百人も座って踊ってますよね。

I:もう、ビックリしましたね。失神する人もいたり。

S:これは素朴かもしれないんですけど、ヒンドゥーの宗教音楽にはこういう音楽もたくさんあって・・

I:いちおう言っておきますと、これはガネーシャという象の頭をした神様の歌でした。

 

11:「 ケイタズ・ソング 」ケイタ・フロム・バルメール

S:インドにはものすごくたくさん州がありますよね。

I:えっと、デリーを加えれば26州だったかな。

S:その州ごとに良い音楽があるので、泣きたくなります。

I:あ、29に増えてました。すみません、学者のくせに(会場笑)。どんどん州を分轄してるんですよ。

S:僕が今お聴かせしたのは、典型的なラージャスターン州の民謡です。自分でビデオから録音してるんで音が悪いんですけど、というのは、ちょっと話が長くなりますが、州都のジャイプールでムサフィールというグループに会ったんですね。彼らは夏の間はヨーロッパで活躍してるもんだから、現地のミュージシャンが売り込みに来ます。そこから良いのをスカウトして、次の年のヨーロッパに連れていくんですけど、その売り込みに来た若いミュージシャン達のところに一緒に聴きに行ったんですよ、俺。そしたらケイタ君っていう12歳くらいの男の子がリード・ヴォーカルで、ビルの屋上で急に歌いだしてくれたんですね。こんな喉でいきなり歌われたので、これは録画しなきゃ、ってことで録ったのがこの音なんです。

I:ラージャスターン州は、インドの中でも芸能の宝庫って言われています。砂漠の民や遊牧民などがあちこちからやってきて交流している地域の音楽って、やっぱり面白いんですよ。音楽家のカーストみたいな集団があって、小さ〜い時から伝統的な音楽をずっと聴いている。そういう土壌がこういう天才的な子どもの歌手を生み出すんですね。

S:インドの北のほうにあって、西のパキスタン国境に近い砂漠の州なんですけど、ラージャスターンはジプシーとの繋がりがすごい強くて、ジプシー起源の地とも言われているところですよね。そのせいか女性の発声が、喉をガラガラ鳴らすような東欧のジプシーみたいなスタイルに似てたりします。

 

12:「 サーマ・ヴェーダの詠唱とシャンク 」T. S. マハーリンガ・グルッカル

S:これはぐっと南の、熱帯の暑いところですね。

I:ものすごく素朴な音ですけれども、ちょっと珍しい音楽なので、持ってきてみました。南インドのティルヴァールールという街に有名なティヤーガラージャという名前のシヴァ神のお寺があります。これを歌っているのは、そのお寺付きのお坊さんのお一人で、ずっと法螺貝を吹いてた人なんですよ。最初に口で言ったのは、サーマ・ヴェーダと呼ばれる、いわゆるインドの最古層の経典で、その後に専門の法螺貝を吹きながら、自分で喋るわけですね(笑)。

S:いわばトーキング・モジュレーターだ。

I:そうそう。ふつう法螺貝というのは、お寺でこれから儀礼をやりますよっていう始めの合図としてプーって吹くだけなので、こんな風にメロディーをつけたり、喋ったりするのは珍しいんです。

S:(笑)これは何州なんですか?

I:ティルヴァールールはタミルナードゥ州です。行ってみてもらえると分かりますが、他にも変なものがいっぱいあるところです(会場笑)。

S:変といえば、なんだか得体の知れない宗教電車とか軍隊の電車に乗っちゃったりとか、ワケわかんないものにいっぱい出会いますよね、インドでは。

I:特に12月ごろは、巡礼の季節なんですね。一番季節が良くて、一番大きなお祭りがあるので、どこの寺院も混んでる。巡礼の人たちって、ものすごい長距離を歩くんです、これがまた。空港から歩き始めて、寺院までず〜っと歩いて、何日間もかけて。

S:この本にも書いたんですけど、時間感覚が違いますよね。

I:日本人の時間感覚はせこい、っていうことなんでしょうか(笑)。

S:デリーから電車でラージャスターンに行く時に、この電車の終点はどこ? って訊いたら、グジャラート州のアーメダバードで30時間以上かかるよ、って。片道に30何時間もかかるのかよ! みたいな。

I:ひょっとして普通電車に乗っちゃいました? ラージダーニーみたいな特急に乗らないと(笑)。

S:ラージダーニーが休みだったんですよ。そういう実用的な話は、この本の最後に「サラーム流インド旅行術」として書いてます。僕は人と全然違うことを言うらしいですね。

I:サラームさんの本で私がおもしろかったのは、いままでインド旅行っていうと、すごく大金持ちかバックパッカーのお金の無い人たちかの二つに分裂していて、中間の人たちが気軽に、しかも安全に快適に旅をする方法が書かれてなかった。サラームさんは、それを書いてくれたので、学生にも薦められるし、すごくいいなと思ったんですね。

 

13:「 デー・デー 」アリーシャー・チナーイー

S:次はガラッと変わって、インドのポップスです。ボリウッド、インド版のハリウッド映画みたいなものですが、その音楽にいきます。でも、アリーシャーのこの曲は正確にはボリウッドの曲じゃないですよね。

I:アリーシャーは、はじめは映画とはちがうところで活動していたんです。これは93年に彼女が初めてテレビに登場してきた時の曲で、作詞も作曲もアリーシャーのオリジナルです。

S:インドのポップスは今でもほとんどが映画音楽からヒットするんですけれど、都会部を中心に映画音楽以外のポップ歌手も人気があるんですね。

I:うん、映画音楽以外のポップ歌手としては、アリーシャーは一番最初に売れ始めた歌手ですね。この曲には、いろんな意味で私は驚いたわけですよ。まず、当時流行っていたユーロビートのようなダンス・ミュージックをストレートに取り入れている点で、その次にびっくりしたのは、声がラター・マンゲーシュカルじゃなかったこと。

S:ラター・マンゲーシュカルという、インド映画のヒット曲をほとんど歌ってきたっていう、おばあちゃんの歌手がいるんです。

I:彼女の声はすごいソプラノのファルセットでキンキンしてるから、インド映画を観ていると耳に付くんですよ。私は初めてあの声を聴いた時に、実は気持ち悪いと思いました。どこからこんな声を出して、どうしてこういうものを好むんだろうとず〜っと疑問だったんです。そこにこういう地声で普通に歌ってるのが出てきたので、それがまずものすごく新鮮でしたね。

S:でも、いまだにラター・マンゲーシュカルや、妹のアーシャー・ボースレーのふたりが歌うと、その映画はヒットしますよね。

I:ラターが歌うと、それだけで音楽が売れたり映画もヒットしたりするので、それも不思議なんですけど、やっぱり国民的大歌手なんですね。いま80歳ぐらいでしょうか。

S:映画にはセクシーなお姉ちゃんが出てるのに、歌手は建国のときからず〜っと同じ人、しかもおばあさんが歌ってる(笑)。

 

14:「 カジュラーレー 」アリーシャー・チナーイー、シャンカル・マハーデーヴァン、ジャーヴェド・アリー

S:ボリウッドの大ヒット曲を聴いてもらいました。『バンティ・アウル・バーブリー』っていうボリウッド映画の中から、アリーシャーが歌っている曲です。

I:ずいぶん落ち着きましたね、これ。さっきのは若い頃だし曲もダンス風でしたけど、やっぱり歌い方がボリウッド風になってきたんでしょうね。

S:アリーシャーが作詞作曲で、リメンバー・シャクティのメンバーでもあるシャンカル・マハーデーヴァンにエサーンとローイの3人組のチームがプロデュースしてます。今のボリウッドはシーンに合わせていろんなタイプの曲を作らなきゃいけないから、一人じゃ作りきれないんでしょうね。そういう中で彼らは一番売れっ子のプロデューサー・チームです。古典もできるんだけど、ちゃんとポップもやれる。

I:やたらとダンスが多い最近のボリウッドの中では、うま〜く民謡的な要素を取り入れてますよね。インドでは子どもがみんなこの曲の「カジュラ〜レ〜♪」で踊るっていうくらい、大ヒットになりました。

S:俺もDJでこれしょっちゅうかけてます。こんなにダサいのかけていいのかぐらいな感じで。でも、シャンカル・エサーン・ローイの3人組は録音技術もちゃんとしてるし、世界レベルのポップスを作れる人だと思います。

 


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