桜丘町音樂夜噺 > 第12夜 > お噺:1 / 2 / 3 / 4

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01:「 さあ今だ! 」 ソニア・ポセッティ・キンテート

西村(以下N):最初に、「これがまさにアルゼンチン・タンゴの今の音だ」と私が思っているものをお聴きいただきます。現代タンゴというとアストル・ピアソラの存在は欠かせません。ブームになろうがなるまいが、たいへん大きな影響があるわけです。そのピアソラが自分の音楽を表現するのに一番良い編成だと最終的に決めたのがキンテート=クインテット、つまり五重奏団だったんですが、面白いことに、アルゼンチン・タンゴの今の音を体現している人たちには、キンテートの編成でやっている人がすごく多いんですよ。必ずしもみんながピアソラのサウンドを追っかけているわけじゃないんですが、キンテートに落ち着く。ヴァイオリンがひとり、バンドネオンがひとり、ピアノがいて、ギターか他の楽器が入って、コントラバスの5人という、キンテート編成のグループをふたつほど聞いてみましょう。

まず女性ピアニストのソニア・ポセッティ。彼女のキンテートの最初のCDから1曲聞いていただきました。ギターの代わりにバイブラフォンが入っているのが非常にユニークで、曲の感じは現代の典型という気がします。

佐藤(以下S):クラシカルなんだけど、ちょっとポップな曲ですね。

N:ソニア・ポセッティは結構、クラシックのオーケストラのための曲も作ったりしています。タンゴのミュージシャンってクラシックをひととおり勉強している人ばっかりなんですよ、特に最近は。

S:その意味ではちょっといい子ちゃんが多くて、その辺に私、ちょっと物足りなさを感じていたんですが。いい子の西村さん(笑)としてはいかがですか?

N:私はいい子じゃないですよ(苦笑)。でも、若手のミュージシャンにはちょっとその傾向はありますよね。必死に垢というか、味を出そうとしているんだけど、どうしても勉強で身に付けようとしちゃう。

 

02:「 トムとジェリー 」 ラミロ・ガージョ・キンテート

N:続けて同系統の、今度はラミロ・ガージョという男性です。エル・アランケというグループで来日もしていますけど、現代屈指の作曲家でありアレンジャーでもあります。たしか今30代後半ぐらいですね。最近出した彼のキンテートの新しいアルバムから1曲聴いていただきました。

S:ラミロ・ガージョは何屋さんでしたっけ?

N:ヴァイオリン奏者です。この「トムとジェリー」は、同僚のバンドネオン奏者に捧げられています。

S:曲作りの発想が面白いですね。

N:ピアソラの流れもだいぶ感じられますよね。

S:従来の現代タンゴって言われてきた“ピアソラ以降”の枠組みからも少し外れつつある世代だということでしょうか?

N:彼よりもちょっと前の世代の人は、ピアソラの呪縛が強すぎて、ピアソラ的なスタイルから離れることが難しかった。

S:逃れようとすればするほど特徴が似てくる、と。

N:でもそこから少し時間が経つと、ピアソラもすでにタンゴの古典の領域に入っちゃったので、ある程度距離を置いて見られるようになったんでしょうね。

S:今日初めて見てびっくりしたんですが、このCDは、ジャケットのアートワークがこれまでのタンゴと違って非常に美しいんですよ。現代ポップ・ミュージックのアルバムみたい。新しいポピュラー音楽としてタンゴを捉えなおしている感じがしますよね。

N:いっぽうでこうして改めて聴いてみると、タンゴってポピュラー音楽だけど、やっぱりずいぶんクラシカルな音楽だなぁという気もするんです。

S:なるほど。

N:使ってる楽器のせいもありますけどね。

 

03:「 デカリッシモ 」 タンゴ・リフレクションズ・トリオ

N:これまでのタンゴの世界は、よそものはこっちに入ってくるな、とでも言ってるかのように、ちょっと敷居が高かったんです。

S:敷居以上の高さがありましたよね。

N:それが今は、自然に境界線のところに少し滲んだ部分ができつつあるんです。そのわかりやすい例を何曲かかけてみます。まずはジャズ。ジャズとタンゴという試みは今までもあったし、ピアソラもある意味ではジャズ的なんですけど、このタンゴ・リフレクションズ・トリオというユニットは、アドリアン・イアイエスという、アルゼンチンのジャズ・ピアニスト−−と言い切っていいと思うんですけど−−がリーダーです。モダン・ジャズもやりますが、普通のジャズのピアノ・トリオでピアソラの曲をやってみたりする。それが受けてしまって、タンゴの名曲をジャズのピアノ・トリオ+バンドネオンのフォーマットでやっています。ブエノスアイレスではライブにもすごく人が集まるんですよ。

S:タンゴのクラブでライヴをやるんですか。

N:というよりはジャズ・クラブ系とか、あとはフェスティバルとかが多いみたいです。ソロを取ってるバンドネオンのパブロ・マイネッティは非常に評価の高い奏者です。

S:どんな活動をしていらっしゃる方でしたっけ?

N:自分のキンテートも持っているし、彼のオーケストラでしばらく前に来日してたりするし、いろんなことをやってます。今日かける他のトラックでも弾いてますよ。このトリオではジャズ的なアドリブをバンドネオンで取るわけです。曲はピアソラの「デカリッシモ」でした。

S:タンゴの名曲も随分やってますね。

N:でも、演奏時間を見ると6分とか9分とか長くて、ジャズのサイズですよね。インプロビゼーションの部分をしっかり含んでます。

S:ジャズとタンゴの伝統がぶつかるバトル感覚ではなくて、すごく自然な音楽です。こういうものも出てきたんですね。面白いなあ。

N:やっと納得いくものが出てきたという感じですね。DVDで見るとまた面白いんですよ、動きがあって。

04:「 ソニアーダ 」ダミアン・ボロティン―クエルダス・ポップテンポラネアス

N:今度はタンゴとクラシックとの接点をご紹介します。ピアソラのブームも、クラシック・ヴァイオリニストのクレーメルが取り上げたことで国際的に起こったような面もありますし、元々クラシックとタンゴは繋がりが強いんですけど、今日持ってきたのはタンゴのミュージシャンがクラシックに寄っていて、でもしっかりタンゴ、というものです。弦楽四重奏ぽいけど、タンゴだけに特殊な奏法を加えてやっている最近のディスクから聞いてもらいました。リーダーはダミアン・ボロティンという人で、1曲目のソニア・ポセッティの旦那です。

S:この人、いろんな楽団に参加して何度も来日してますよね。

N:自分のグループをあまり持たなかったんですけど、このCDはまったくの新機軸で、コンテンポラネアス(=コンテンポラリー)をもじって、ポップテンポラネアスなんて言ってるように、ポップなものを目指しているんですが、でもとてもクラシックなんですね。ヴァイオリンにヴィオラ、チェロ、つまり弦楽四重奏です。曲は自作で、「ソニアーダ」は奥さんのソニアという名前にひっかけてるんですね。この二人べったべたなんです。

S:あらやだ(笑)。彼らの音楽は、好みは分かれるでしょうね。

N:弦楽四重奏だけど、結局タンゴのベースの、ウンウンウン、ていう…

S:呼吸感が。

N:そうそう、弓を使って刻んでいくあの感じとか、あとはヴァイオリンの特殊奏法ですよね。駒のこっち側を擦るんです。

S:「チチャーラ」ってやつですね。

N:ジキジキって音ですよね。そういう音を多用して、タンゴっぽいものを取り込んでいく。この種の試みは、わりと多いんです。こんなふうに他ジャンルへの接近も最近はだいぶ容易になってきて、ずいぶん熟してきたわけです。

S:わざわざ異ジャンルで新しいフィールドを作ってリングの中で格闘するっていうのは、時代じゃないよね、って今みんながいろんなところで言い始めてる。それが同時代的にタンゴにも起こってきたんじゃないのかなあ。

 


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